舞鶴引揚記念館を訪ねる

ユネスコ世界記憶遺産登録
舞鶴引揚記念館を訪ねる

「引き揚げの歴史と平和への願いを世界へ未来へ…」


(山下館長。新しくなった玄関前で)

 戦後70年が過ぎ、戦争の歴史が風化しようとしている。でも、世界に目を向ければ、紛争やテロが繰り返され、尊い命が犠牲になっている。そんな時代だからこそ、引き揚げの歴史を伝え平和の大切さを願う舞鶴引揚記念館の役割は大きい。昨年、リニューアルと所蔵資料のユネスコ世界記憶遺産登録がなり、来館者を増やす同館を訪ねた。


■引き揚げのまち

 昭和20(1945)年の第二次世界大戦終結後、海外に残された660万人ともいわれる日本人を帰国させる「引き揚げ」が始まった。舞鶴港は、政府が指定した引揚港の一つとして、同年10月7日の第1船から33年9月7日の最終船まで、25年以降は唯一の引揚港として、13年間の長きにわたり引揚者を迎えた。

■歴史を後世に伝える

 舞鶴引揚記念館は、引き揚げと旧ソ連での抑留の歴史を後世に伝え、平和の尊さを世界に発信するため、昭和63(1988)年、日本全国から寄付を受けた舞鶴市が設けた。
 ピーク時には年間約20万人を数えた入館者も、時代の流れとともに徐々に減り、平成23(2011)年度には約10万人と半減した。危機感を覚えた市では、「引揚記念館あり方検討委員会」を設け、その提言を踏まえて、施設の改修、ユネスコの世界記憶遺産登録を進めた。
 「戦争を知らない世代に対応した展示、多くの人に貴重な資料の存在を知ってもらうことで、薄れゆく引き揚げの歴史と平和への願いを世界へ、そして未来へ伝えていくことが使命。昨年9月のリニューアル、10月10日のユネスコ世界遺産登録を受け、平成27年度の入館者は約13万人まで増えました」と山下美晴館長は話す。


(常設展示「苦境の記憶」のコーナー)


(「平桟橋」を再現)


■初の全面リニューアル

 リニューアルでは、戦争を知らない世代にも「引き揚げ」を理解してもらえるよう、レイアウトや展示方法が一新された。モニターやタッチパネルなど使いながら学べる展示も増えている。また、平和学習や講座に使える専用のセミナールームが設けられた。
 常設展示室は、「苦境の記憶?世界恐慌からシベリア抑留まで~」「帰還そして再会」「平和への祈り」と、分かりやすく3つのコーナーに分け、全国から寄贈を受けた約1万6千点の貴重な資料のうちの1000点以上を展示している。ユネスコ世界記憶遺産に登録された資料には分かるようにプレートが添付してある。館内には、ボランティアの語り部がいて説明もしてくれる。

 

 

世界記憶遺産に登録された資料


わが青春の浪漫抄
木内信夫さんの記録絵画。帰国直後に描かれた記録画としては他に類がなく希少性が高い


手作りのメモ帳
セメントの袋を切って、見つからないようとても小さく(75ミリ×50ミリ)作られている


白樺日誌
シベリア抑留中、紙の代わりに白樺の皮に、日々の思いを和歌にしてしたためたもの

 

世界記憶遺産とは?
 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の三大遺産事業の一つ。世界の重要な記憶遺産の保護と信仰を目的に平成4(1992)年から開始された。選定基準は、 真正性(本質や出所が確認されている)、世界的な重要性など。今回、「舞鶴への生還 1945-1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」 として同館所蔵の資料570点が登録された。同館では、それを紹介するガイドブックも用意している。

 

舞鶴引揚記念館
学芸員 長嶺 睦 (39)

 大学の卒業研究で教授から「君は沖縄出身だから戦跡考古学(註)をやってみては」と助言をいただきました。沖縄戦については、祖母が体験者で話を聞いていたこともあり、沖縄の戦争遺跡の保存と活用について研究しました。今の道に進む原点です。当時、舞鶴引揚記念館も訪れていて、10年後ここで働くことになり、運命的なものを感じました。
 学芸員の仕事は、常設展・企画展の構成、全国から寄せられる資料の受け入れ、整理、保存、教育普及活動など。教育普及活動では、子ども達が当館を訪れる前に学校に足を運んでレクチャーしますが、シベリアで抑留者が着ていた服などを持って行って触ってもらいます。このような経験はまずできないと思います。
 今回のリニューアルと世界記憶遺産登録は、抑留体験者、引揚者の労苦を偲び伝える場から、戦争を知らない世代にも「引き揚げ」を分かりやすく紹介する場とし、広くPRすることを目指しました。展示を通して、「二度と戦争があってはいけない。犠牲があってはいけない」という体験者の強い思いを伝えていきたいと思います。(談)

(註)戦跡考古学:戦争遺跡を対象とした考古学の一分野

1977年沖縄県生まれ。京都造形芸術大学芸術学部文化財科学コース、同大学院で学ぶ。大阪府文化財センター、福井県埋蔵文化財調査センターなどでの勤務をへて、2012年より同館初の学芸員となる。舞鶴市在住。展示を通して不戦の願いを伝える

 

ガイドブック 

ユネスコ世界記憶遺産に登録された収蔵資料をすべて収録した資料集「舞鶴への生還 1945-1956 シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」(1500円)

 

イベント

☆開催中~9月28日(水)
企画展「新収蔵品展-継がれゆく記憶-」

 2014・15年度に全国より同館に寄贈されたシベリア抑留や引き揚げをはじめ、第二次大戦下における新たな資料642点を紹介。手記・体験記など書籍類をはじめ、抑留中に撮影された写真、引揚者の腕章、旅行者外食券や引揚者を現地で出迎えた記録など貴重なものが多い。世界記憶遺産登録後、寄贈数は増えているという。


米軍の通訳用に発刊されたものとみられる日本語ガイドブック


☆8月11日(木・祝) ナイトミュージアム

 夜の引揚記念館を体験する初めてのイベント「ナイトミュージアム」が8月11日(木・祝)午後5時~9時に開かれる。朗読と音楽がコラボしたボイスドラマ、地元若浦中学校の生徒による紙芝居など。屋外の公園では、平和の願いを込めたキャンドルイルミネーションなどが行われる。ナイトミュージアムのみ入館料は無料。

 

舞鶴引揚記念館 

開館時間/9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日/毎月第3木曜日(8月と祝日を除く)
入館料/大人300円、学生(小学生~大学生)150円
    ※舞鶴市内在住、在学者は無料
「お得チケット」 引揚記念館・赤れんが博物館に入館できる共通券だと大人400円、学生200円
住  所/舞鶴市字平1584番地
問い合わせ先/TEL0773-68-0836